第7回むつき庵はいせつケア実践報告会 報告02 [はいせつケア大賞]

第7回むつき庵はいせつケア実践報告会 はいせつケア大賞 受賞

「私の排泄ケアへの取り組みと大切にしたいこと」

国立病院機構兵庫中央病院 茨木 素景子さん  

 

7年前に3級研修を受けてから今年認定講師養成セミナーを受けるまでの排泄ケアへの取り組みとその時々に感じた「大切にしたいこと」を振り返ってみたいと思います。

私が排泄ケアに関心をもったのは、神経内科病棟に配置換えになった時に拘縮の強い患者さんたちが何枚ものおむつを重ね当てされた姿をみて何とかしたいと思ったことからです。漏れないおむつの当て方が知りたくて受けたおむつフィッター研修は目からうろこの衝撃の体験でした。大切なのは漏れないことではなく個々の患者さんに応じた安楽で安全な排泄ケアの「知識」と「技術」なのだと感じ、研修後すぐに勉強会をひらいて同僚たちに伝達していきました。

1級研修が終わってしばらくした頃、実家の父がレビー小体型認知症と診断されました。自律神経障害からくる起立性低血圧による失神、骨折を繰り返し半年後にはおむつが必要になりました。脱水による急性増悪で緊急入院した父は7枚ものおむつを重ね当てしたうえにつなぎの抑制衣とミトンを着用させられていました。それはフィッター研修にいくきっかけになった患者さんの姿と重なるものでした。思わず写真に撮った父の姿と妹の「ひどい、虐待だ」という言葉はその後の活動の原動力になりました。

退院後の在宅介護はフィッター研修で学んできたことの実践の場になり、学んだ知識は生きた知識になっていきました。約4年間の介護でおむつフィッターとして得た知識や情報、技術は本当に役立ちました。これまでの看護師として排泄ケアにかかわってきたけれど、ケアされる側の家族としてのかかわりの中で「意識を変えること」「理解すること」も大切なのだと感じました。

父の介護をするうちに病院や地域全体の排泄ケアのレベルアップの必要性を感じ、積極的に情報発信するようになりました。次第に院内でもおむつフィッターとしての存在を認められるようになり、全看護職員対象に排泄ケアに対する意識を変え、正しい知識と技術を習得することを目的としたおむつプロジェクトをたちあげることができました。その結果、おむつの適正な使用により廃棄物が減り月に約20万円のコスト削減ができ国立病院機構QC活動奨励表彰優秀賞を受賞しました。また国立病院総合医学会や地域の看護協議会の実践報告会で浜田先生をお呼びしたり、看護雑誌でインタビュー記事を書かせていただいたりと機会があればなんでもさせてもらいました。

父は昨年亡くなりました。大正生まれでプライドの高い父にはじめておむつを勧めた時に、拍子抜けするほどすんなり受け入れたことに驚いたけれど、遺品を整理していて「かみそりと言われた男が紙おむつ」と書か

れた走り書きを見つけ、本当に父の思いを理解していたのかと胸が痛みました。
プロジェクト活動で「インナー1枚、アウター1枚」を徹底したはずの病院でも職員の入れ替わりとともに両面吸収や吸収量の多いパッドを多用する場面を見かけるようになり、継続することの難しさを感じていた時、むつき庵で認定講師養成セミナーが開講されることを知り応募しました。

価値観をゆさぶる本と指定された課題図書が、一見排泄とはかかわりのない亡命ロシア人画家や自爆テロ、統合失調症のコミュニティーの話であったのには驚き、頭をかかえました。何度も読み直してレポートを書き、研修でお互いのパワーポイントについて討論するうちに多様な価値観とはなにかおぼろげにわかったような気がします。そんな時にであったのが俳優の石倉三郎さんの「介護は理解するものではなく感じるもの」という言葉です。ケアされる側の気持ちを理解することが大切と思っていたけれど、本当に大切なのは相手を理解しようと思う上からの目線ではなく自分事として「感じる心」ではないかと思うようになりました。いま排泄ケアはほんとうに奥が深いものだと感じています。これからも、看護師であり患者家族である私だからできることを模索しながら、むつき庵やおむつフィッターの仲間たちと、亡くなった父とともに排泄ケアにかかわっていきたいと思っています。

第7回むつき庵はいせつケア実践報告会-発表者の皆様