第7回むつき庵はいせつケア実践報告会 報告08  [むつき庵賞]

第7回むつき庵はいせつケア実践報告会 むつき庵賞 受賞

「生活支援のトータルケアを考える〜訪問相談からの考察〜」

福岡市介護実習普及センター 辻 奈美さん  

|はじめに

当センターで受けた訪問相談の中で、当初の相談主旨が排泄ケアではなかったものの、結果的に排泄トラブルをも改善した例を紹介します。

|事例と対応

【事例1】

グループホームの職員より、入居者Aさん(92歳、女性、身長142cm、体重32kg)の車いす上での姿勢崩れに対する相談があり訪問をしました。どんなに姿勢を戻しても、5分も経たず自ら身体を横に倒し姿勢を崩してしまい困っているとのことでした。ご本人が小柄である為、利用中の車いす(標準型、非調製タイプ、座幅40cm)では体格に合わないため、車いすの見直しによって姿勢が整いましたが、10分足らずで姿勢を崩されました。背部から臀部へ手を入れてみると、大型のパッドがヨレ、左座骨に当たっていました。パッドのヨレを職員に伝えパッドの交換の後座り直しをしたところ、約30分間は姿勢を崩すことなく過ごされました。対応前は表情が硬く、唇を一文字にして閉じ、身体の脇に置いたバッグを握り締めていたAさんでしたが、パッドのヨレを直し座り直してからは、口元が緩み、握り締めていたバッグを離し、手は膝の上に置き、非常にリラックスした様子でした。

【事例2】

老健の職員より、入所者Bさん(61歳、女性、脳卒中後遺症による高次機能障害、片麻痺、発語障害など)の姿勢崩れと暴力行為をどうにかしたいということで訪問をしました。職員によると「健側の手足を使った自律駆動が姿勢崩れによって上手くできないストレスから、他の入所者の車いすを掴み、力任せに引き寄せたり、叩いたりする行為に繋がっているのではないか」とのことでした。車いすの再選定および適合、靴の見直し、フットケアの指導、スタッフの移乗介助の見直しなどを行いました。後日評価のために再訪問した際、Bさんは駆動が上達しただけではなく、暴力行為も減ったとの報告を受けました。評価までの様子を職員に尋ねた折に「最近食欲がありよく食べるようになったせいで、排便コントロールがおかしくなってしまった。今まで下剤を2日連続で飲ませてやっと便を出していたのに、飲ませた翌日に出るようになった。量も多くて困っている」とのことでした。
 不良姿勢の二次障害として、食欲不振や消化不良、便秘などが生じます。車いすの適合によってBさんの不良姿勢が改善したことから食欲が増し、消化やぜん動運動の更新によって排便力が高まったことで排便周期が変わり、下剤の効きが変わったことは当然の反応と考えられます。しかし、職員間では姿勢の改善と排便力の向上が結びついていないようだったため、不良姿勢と二次障害について説明し、今後の下剤のコントロールについても職員と検討を行いました。2週間後の状況確認では、下剤の使用間隔が開き、量も減ったとの報告を受けました。また、検討前の便性状は、泥状もしくは水様便(ブリストルスケール7〜6)が丸1日続いていたが、検討後は徐々に柔らかい便(ブリストルスケール6〜5)になってきているとのことでした。

|考察

生活支援を行っていると、歩行バランスの低下、座位保持力低下、座位不良姿勢、褥瘡、拘縮、嚥下障害(困難)など様々な困りごとが見受けられます。それらの困りごとを改善すべくケアの実践には、顕在化している問題に直接関係してる原因ばかりに目が行きがちです。原因を追究することは大事なことですが、生活支援においてのケアは「AだからB」という一方通行ではありません。現象を引き起こす要因が複合的に関係しています。特に生活は時間の連続で成り立っているため点での問題で考えるのではなく、朝起きてから夜ねるまで(また、寝ている間も)のトータルケアで考える必要があります。

Aさんの姿勢崩れは車いすの不適合だけではなく、根底にはおむつの当て方に問題がありました。ヨレたおむつで身体が圧迫されることを避けるために自ら姿勢を崩していました。姿勢が悪くなると筋緊張も強くなるため表情も硬くバッグを握りしめるという現象になっていました。おむつを見直すことで姿勢が整うだけでなく、緊張も弱まりリラックスすることができました。Bさんは、不良姿勢を改善することで、二次障害としての消化機能の改善および排泄力の向上が見られました。当初は姿勢崩れすることなく足駆動ができるために車いすの選定を目的にした相談でしたが、排泄ケアに関する問題も解消されました。

生活支援とは、その人の生活内容がよくなることを目指します。AさんBさん共に、車いすの見直しだけでは根本的な問題の解決とまでには至らなかったでしょう。おむつの見直し、下剤コントロールの見直しまでを行い、排泄トラブルだけではなく、過度な緊張やストレスを改善することにまで至りました。問題視する現象とその原因との因果関係を考えたとき、その原因は突発的には生じません。原因を引き起こす要因が何かしらあり、要因も複合的に関係しています。その要因までを掘り下げてアセスメントし、細かく丁寧に検討していくために、視野を広く持ちトータルケアの実践にあたりたいと考えています。

第7回むつき庵はいせつケア実践報告会-発表者の皆様